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トップページ > 代表長尾が語る > おすすめBOOKS 2011年版

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おすすめBOOKS

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会社と仕事を変えるデザインのしかけ
会社と仕事を変えるデザインのしかけ 中野由仁 クロスメディア・パブリッシング 1580円
  MBAを持つデザイナーが書いたデザインを経営に活かすための本。私は、デザインを人、モノ、金、情報に次ぐ「第5の経営資源」だと考えているし、デザイナーは、税務顧問(税理士)、法律顧問(弁護士)、経営顧問(コンサルタント)、労務顧問(社労士)に次ぐ、「第5の顧問」、デザイン顧問としてもっと企業経営に入り込むべきだと考えている。特に中小企業に行けば行くほど、デザインへの関心が薄過ぎる。これは経営者の側にも問題があると思うのだが、デザイナーの側にも大いに問題があると思う。作ってみなければ分からない、やってみなければいくらか言えない、言われた通りに作るから要望を言え、といったお粗末な対応が多過ぎ。これでは頼みたくても頼めない。だから、固定の顧問料を払うデザイン顧問になったらいいと思うのだが、どうだろう?本書に、そんな提言があるわけではないが、私が考えるデザイン顧問的な提言が分かりやすく書かれていておすすめだ。名刺やホームページなどをどうするかといった具体的な事例もある。おまけにどうやったらコストを下げられるかといった提言もあるから、なかなか良心的だ。大企業には専門の部署があり、担当者がいるから、本書の内容では物足りないだろうが、中小企業経営者には是非読んでもらいたい。「第5の経営資源」について考えてみて欲しい。そして、是非デザイナーの皆さんにも読んでもらいたいと思う。こういう提案を分かりやすく中小企業の皆さんにしてあげてください。きっと仕事がたくさんあります。「第5の顧問」になろう。
采配
采配 落合博満 ダイヤモンド社 1500円
 言わずと知れた元中日監督の書いたリーダー論。プロフェッショナルとして一流を目指す人のための指南書と言ってもいいだろう。野球の話が多いのは当然だが、ビジネスに置き換えた内容も多く、一般のビジネスマンにも大いに参考になる。「身内からも嫌われるのが監督という仕事なのだと思う。嫌われるのをためらっていたら、本当に強いチームは作れない。本当に強い選手は育たない。」や「自分の腹の中を読まれてはいけない。それがプロフェッショナルの仕事なのである。」といったシビアな言葉が並ぶ。やはり実績を残す人はそれなりのことを考え、実行している。因果応報。楽して成果が出ることはなし。やるべきことをキッチリやろう、と思える良著。読みやすいし、おすすめだ。
矛盾の経営
矛盾の経営 古井一匡 英治出版 1600円
 面白法人カヤックという会社を紹介した本。私の師匠(弟子にした覚えはないかもしれないが・・・)がブログで紹介していたのを見て読んでみた。友人3人で始めた会社が、そのまま大きくなった、ということなのだろう。サイコロで給与が変わったりする遊び感覚満載の企業経営が紹介されている。一般の会社では受け容れられないような施策が多いし、面白いのはいいが、仕事の質は保たれるのか?と疑問に思う点もあるのだが、これからの時代は、こうした自律と自発をベースとした組織運営が求められるようになるはずだ。仕事だから、ではなく、面白いから、やる。大切なことだ。イヤイヤ取り組む義務感では頭を使い、智恵を絞る良い仕事はできない。当然、自律や自発を促進すれば、規律や品質が後回しになる可能性が出て来る。ここのバランスをどう取って行くか。このカヤックという会社が今後大きくなっていく過程でどう変化していくのか研究材料として興味深い。本書によると上場も目指しているみたいなので、上場準備、審査の過程でどうなるか見物である。個人的にはこういう会社が増えて、上場審査のあり方なども見直されることを期待したい。頑張れカヤック。
 こんな会社もあるんだな、ということを学んでみることを経営者、後継者にはおすすめしたいと思う。仕事に面白味を増すヒントを探してみよう。
社長はなぜ、あなたを幹部にしないのか?
社長はなぜ、あなたを幹部にしないのか? 小山 昇 日経BP社 1500円
 現役社長が書いた管理職心得。本音トークで有名な武蔵野、小山社長の幹部、管理職に向けた辛口メッセージだ。経営論の教科書や一般の管理職向け研修などでは言わないような、現実的なノウハウが紹介されている。経営者が本書を読めば、「そうだ、その通り。うちの管理職もこの本のようにして欲しい」と思うだろうが、管理職本人が読んだら、どうかな・・・・。本書のようにはしたくない、俺には俺のやり方がある、なんて思うかもしれないが、そんなことを考えるようでは管理職は務まらないということだろう。小山社長の本は、理論的な裏づけがあるようなものではないが、中小企業の実態に即した現実論に面白さがある。「伸びている会社ではダメ社員から辞めていく」といった指摘はまさにその通りだと思う。提言内容すべてに賛同するわけではないが、中小企業の経営者、幹部、管理職には参考になる本だと思う。その立場立場で受け取り方は違うだろうが、素直に読んでみることをおすすめしたい。
スティーブ・ジョブズ T・U
スティーブ・ジョブズ T
スティーブ・ジョブズ U
ウォルター・アイザックソン 講談社 各1900円
  今さら、ここでおすすめする必要もないかと思うが、触れないわけにもいかないかな、と思うほど売れているスティーブ・ジョブズ本。ジョブズの本は他にもたくさん出ているが、本人が進んで協力した伝記だけにプライベートにも深く踏み込んだ内容になっている。本人が亡くなるタイミングだから書けたのか、本人が天才だから気にならないのか、分からないが、ハッキリ言って酷い所業が書かれている。天才か鬼才か奇才か、分からないが、凡才には理解不能。だがその偏執狂的なモノづくりへのこだわりによってMacやiPad、iPhoneなどが生まれた。私も90年代にはMacを使っていてあのGUIはウィンドウズにはない素晴らしさがあると思うし、今はiPadを持っていてそのデザインの洗練度というかシンプルさには感服しているが、正直なところジョブズは好きになれない。まぁ好きじゃなくてもいいんだけど、少なくとも経営者として目指したいとは思わない。世間では世界を変えた天才経営者!みたいなことを言っているが、それを言うならそもそも音楽を家の外に持ち出したソニーのウォークマンの方が世界を変えたと思うし、マイクロソフトやリーナス・トーバルスは洗練された製品は作り出さなかったかもしれないが、パソコンをコモディティ化させてこれだけ普及させたわけだから、より世界を変えたように思う。そしてやっぱり日本人的には経営者は人として立派であって欲しいと思うし、澁澤榮一の「論語と算盤」的な観点から言えばジョブズは落第ではないか、と思う。本書は、ジョブズのマイナスの面も隠さずに見せてくれる点で素晴らしいとも言えるし、ここまで見せなくても良かったのではないかと、なんだかジョブズに失望してしまう面もあるように感じる。
 それでも卓越した経営者であることは間違いないな・・・。製品に対するこだわりなどは大いに参考になる。つい「まぁこんなものでいいか」と妥協してしまうようでは世界は変えられない、ということだろう。
スティーブ・ジョブズ T→ スティーブ・ジョブズ U→
政治家の殺し方
政治家の殺し方 中田 宏 幻冬舎 952円
 前横浜市長が書いた「改革実行テキスト」だと思って読んでみたら良い本。行財政改革に取り組み、横浜市を変えようとした中田市長は、既得権益を剥奪された様々な筋の人から攻撃された。物事の善悪以前に、自分さえ良ければ良い、自分に都合が良いことが善であるという価値判断をする人がいる、ということを改革を実行しようとする人は知っておかなければならない。正しいことをしようとしても(正しいことをしようとしているからこそ)抵抗し、邪魔をする人間がいる。どこの世界にもいる。残念ながら・・・いる。ということを、良い子のみんなが知ってしまっては夢も希望もなくなるような気がするので、高校生以下は読まなくていいかなと思う。だが、正しいことを推し進め、変化を起こそうとする大人は、こういう現実を知っておかなければならない。
 つくづく政治や行政は大変だなぁと思う。そこにいる人を選別できない。その点、企業は採用時の選考も可能だし、辞めてもらうこともできるから、良かったなぁと思う。企業経営においても、正しいことを推し進めよう、改革しよう、と思えば裏で画策したり、邪魔したり、抵抗したりする人間が必ずいる。だがそれは処置、処分が可能だ。経営コンサルタントで良かった・・・。
 本書を読むと政治家や公務員になろうと思う人が減る恐れもある。だが、こうした現実を知った上でも尚、使命感に燃えて、世のため人のために立ち上がる人が出て来ることを祈る。
プロフェッショナルを演じる仕事術
プロフェッショナルを演じる仕事術 若林計志 PHPビジネス新書 800円
 大前研一氏のビジネスブレークスルー大学の若手講師が書いた「現代版・弟子入り」のすすめ。一流のプロフェッショナルから学ぶには、まずそのプロを真似して演技せよと説く。これはまさに芸事では必ず言われる「守・破・離」のことだろう。著者自身、若い頃に出会ったプロの話に違和感を覚えた経験があり、それが今となって、違和感を持ったところに成長の余地があったと気付いたという。レベルの低い自分の判断で、良いと思うことだけ参考にしよう、取り入れようなどと考えていては、自分の枠を拡げる成長はない。良いとか悪いとか判断する前に、まずすべて受け入れて、その通りにやってみる、という姿勢が必要だ。これがなければ、どうしても教える側も、表面的な知識や技術を教えて終わり、となる。教わった側が偉そうに「これは参考になったけど、こっちはイマイチだった・・・」なんて言うようなら、裏にある微妙なニュアンス、匙加減、塩梅を教える気はなくなる。残念ながらこういう若者が多いから注意が必要だ。おっと自分も気をつけよう。まだまだ素直に学び続けなければならない。本気で成長したい、一流を目指したいというビジネスパーソンは是非読んでみるといいだろう。教わる側の心構えを書いた、最近では珍しい本ということになるだろうか。
超実践的 経営戦略メソッド
超実践的 経営戦略メソッド 山田 修 日本実業出版社 1800円
 雇われ社長として6社の再生を手がけたコンサルタントが書いた経営戦略立案のための実践本。ポーターの競争戦略をはじめ、コア・コンピタンス、ブルーオーシャン、ゲーム理論など有名な戦略論は単なる分析手法であり、現実の経営では役に立たないと一刀両断。マッキンゼーやBCGなどの戦略コンサルもこきおろし。なかなか楽しい。おっしゃる通り。どんなに戦略論を勉強しても、実際には大して役に立たない。フレームワークとかキーワードでシンプルに表現すればするほど、ぼやけたものになる。そもそもそうした理論が成功企業の後追い分析によって導かれた傾向値を元にしているから、平均的な話になったり、こじつけのような話も多い。本書ではエクセレントカンパニーやコアコンピタンス、ブルーオーシャンなどで取り上げられた事例企業のその後にも言及。ほとんどがうまく行っていないではないかと指摘。
 そこで本書では、戦略カードなるツールとシナリオ・ライティングという手法で戦略立案せよと説く。まぁ一人ブレストのようなもの。具体的に書かれているので参考にはなるだろう。但し、あくまでもこれも手法であって、自動的にすごい戦略ができるわけではないから注意が必要。戦略立案方法については色々言いたいこともあるのだが、著名な戦略論を振り回すだけではダメということがよく分かる本なのでおすすめだ。
 同業界で同じ戦略手法を用いて分析していけば自ずと似たような結果になるから、結局のところどこも似たような戦略でしたね・・・ということになる。そもそも業界という枠組みを外してしまうことと、やはり中小レベルでは現状の経営資源の制約から逃れるために一度20年後まで飛んで逆算してくる発想が必要だと思う。そこら辺が盛り込まれるとさらに良かったのだが・・・。実践的で役に立つ一冊。
余震 そして中間層がいなくなる
余震 そして中間層がいなくなる ロバート・B・ライシュ 東洋経済新報社 2000円
 クリントン政権で労働長官を務め、「ザ・ワーク・オブ・ネーションズ」「暴走する資本主義」などの著作で知られるライシュの最新刊。米国では2010年に出た本だが、今まさにウォール街で起こっている反格差社会デモを予言するかのような内容。一部の富裕層に富が集中し、それ以外の大多数は経済的に追い詰められ、最後には暴徒化する。元々貧しく、何も持たなかったのであれば、貧しいままでも不満は小さいが、元々持っていたものを失う不満は大きい。頑張ればアメリカン・ドリームがあったはずなのに、そのチャンスも与えられず、一部の人間に搾取されていると思えば、怒りが爆発するのも無理はない。そうした状況に陥ることをリーマン・ショック後の余震(アフターショック)として警告したのが本書。そしてその警告通りとなった。
 米国と日本では格差の大きさが違うし、怒りの訴え方も違うだろうが、人間の嫉妬心は恐ろしい。人口減少でパイが縮小していく我が国においても他人事ではない。資本主義の行き着く先が、嫉妬と憎悪と暴力にまみれたものにならないように気をつけたいものだ。今、米国で起こっていることを理解するのに有効な一冊。
神様の女房
神様の女房 高橋誠之助 ダイヤモンド社 1300円
 松下家の最後の執事が書いた、松下電器の“もう一人の創業者”松下むめのさんの物語。奥さんがご主人を支えて経営に関与するというのは中小企業の立ち上げ期にはよくある話ではあるが、やはりそのご主人が松下幸之助だけにスケールが大きい。確かに立派な奥さんだ。この本を自分の奥さんに読ませて「少しは見習え」なんて言いたくなる人もいるだろうが、そんなことを言ったら「だったら松下幸之助くらい稼いで来い」なんて逆襲される可能性があるので気をつけて欲しい(笑)。
 幸之助氏の伝記や書物は多いが、それらは当然幸之助目線になっていて、奥さんの内助の功にはあまり触れられていない。本書はむめの夫人の目線で幸之助が語られていて、何しろ著者は二人の臨終にも立ち会ったという執事だからエピソードが詳細に綴られている。やっぱり「経営の神様」も人間であって、弱みもある。幸之助氏が立派な人であったことは間違いないが、いくら立派な人でも完璧な人というのはいないということだろう。
 ただ、松下電器に新卒で入り、永年松下家の執事を務め、松下の財団にいた人だけに、綺麗なことしか書いてない感じは否めない。NHKドラマの原作にもなっているので、綺麗な話の方がいいのかな。ゲゲゲの女房が当たったから、今度は神様の女房で攻めようということか。。。ゲゲゲは見ていないが、神様の方は気になる。ドラマを見て本書を読むか、本書を読んでからドラマを見るか。
新たなる戦略への旅路
新たなる戦略への旅路 ポール・R・ニヴン 税務経理協会 2400円
 バランスト・スコアカードのコンサルタントが書いた戦略策定ストーリー。バランスト・スコアカードでもバランス・スコアカードでもいいが、長いのでBSCと略すことにする。BSCと言えば、キャプラン&ノートンが発案したものであり、そもそもそのコンセプトはドラッカーが提唱していたとされるマネジメント手法である。本書の著者は、そのBSCの指導を専門とするコンサルタントだそうだ。  本家のキャプラン&ノートンを読んでドラッカーの哲学を理解していれば、そもそもポールの本を読む必要はないのだが、「BSCは、戦略を実行に移すフレームワークであり、BSCに取り組む組織は、すでに戦略を策定しており、その戦略をBSCを使って実施したいという考えを持っているという前提を伴う。」という指摘が気に入って読んでみた。
 BSCに取り組んでいる企業は少なくないが、その前提となっている戦略は果たして適切なのか?答えは「NO」である。本書の著者ポールの答えも「NO」である。そうなんだよ!ポール!!分かっているじゃないか。さすが、BSC専門のコンサルタントだと名乗るだけはある。BSCはたしかに戦略実行をモニタリングするためには有効で、とても秀逸なフレームワークなのだが、そもそも戦略自体が戦略的で、有効なものでなければその実行がなされても戦略の成果は現れない。
 だからNIコンサルティングでは、可視化経営というフレームワークにBSCを昇華させて戦略策定段階からモニタリングシステムの構築までご支援しているのだが、この戦略策定部分が難しいものであるのは変わらない。なぜならフレームワークは標準化、汎用化されてこそフレームワークなのだが、戦略は独自性があり他に真似されないものであってこそ戦略的であるものだからだ。可視化経営のご支援をしていても、だいたい戦略と呼ばれているものはある。一応ある。だが、そこに戦略性がない。戦略と呼びながらも戦略的なものではなく、当たり前のことをより頑張ろうとか、より徹底しようとか、より上手くやろうという程度のものが多い。このあたりが、三品先生の指摘する「戦略不在ではなく戦略不全」と合致する。ないわけではないが、機能していないという状態。
 本書は、そこを解決する方法をストーリー仕立てで教えてくれると言う。これは読まないわけにはいかない・・・・・・。
 だが、やっぱり、戦略を戦略的なものにするアドバイスは一般に流通する本では難しいのかなと思う。最近流行のストーリー仕立てなので、読みやすいが、余計な情報も多いし、結局のところ何をどうすればいいのか分からない。最後に策定方法が10ステップで整理されているが、なんとも・・・。私が書くしかないか・・・。
 ではなぜここでおすすめするのか?ということになるのだが、BSCはそもそも戦略がないと意味がないよ、ということをより多くの人に知ってもらうために本書は有効であり、その点でおすすめしたいと思う。
どうする?日本企業
どうする?日本企業 三品和広 東洋経済新報社 1600円
 日本企業の戦略性の無さやそうなる必然性を指摘した「戦略不全の論理」などの著作で知られる神戸大学大学院の先生が書いた日本企業向け戦略論。「おわりに」にも書かれているが、これまでの小難しい研究書ではなく、そのエッセンスを読みやすくした一冊。ハーバードでも教えていた先生だけあって米国企業にも詳しく、企業戦略の系譜、進化、発展についての洞察はとても参考になる。企業経営に携わる人間は是非一度読んでおくことをおすすめする。
 本書の指摘は、成長そのもの、売上拡大、増収増益を目的にした経営には限界があるということ。確かにその通りで、安易に手を広げても、戦略性がなくなるばかりである。その証拠に日本企業の多くが(と言っても事例は業績開示されている上場企業だが)売上は伸びても利益率を下げてしまっている。読んでいると日本的経営の優位性も信じられなくなってくる。なんとも淋しい気分になるが、これが現実。
 中国など新興国への進出についても問題提起がなされていて興味深い。巷で言われているほど新興国市場は甘いものではないということをかつて日本が歩んできた道に照らして指摘してくれている。人口減少で縮んでいく日本は今後どういう方向に進むべきか、本書を読んで考えてみよう。
権力を握る人の法則
権力を握る人の法則 ジェフリー・フェファー 日本経済新聞出版社 1800円
 スタンフォード大学ビジネススクールの先生が書いた立身出世マニュアル。権力を握るというよりは、出世するとか、権限を持つといった、ニュアンスのように感じた。原題は “Power” である。ぴったり来る日本語がないとも言える。権力というとちょっと大袈裟な感じがして、引いてしまうような人でも、人の上に立ちたい、組織をリードする仕事がしたい、組織内での権限を強くしたい、といったことを考えているなら是非読んでみるといいだろう。よくあるリーダーシップ本のような、謙虚で誠実な人格を持ち、率先垂範して実績を積み上げよ的な綺麗事は書いていない。「美しく思いやりに満ちたような世界は存在しない」とバッサリ。世の中が清く正しく美しいはずだと信じたい人は、読まない方がいいだろう。
 そしてご丁寧に、権力者が転落する原因や、権力を持つことによるデメリットまで書かれている。この辺りはすでにそれ相応の立場にある人、権限を持っている人の参考になるだろう。残念なことだが、世の中には清く正しくない人も多いし、自分さえ良ければいい、というのが大半だったりする。その現実の中で清く正しく「真・善・美」を実現していこうと思えば、こうした醜悪な実態を知っておくべきだろう。何のために “Power”を用いるかが問われる。
血族の王 松下幸之助とナショナルの世紀
血族の王 松下幸之助とナショナルの世紀 岩瀬達哉 新潮社 1600円
 続けて松下幸之助本である。時代が松下幸之助を求めている。そんな気がして続けて読んでみる。こちらは、パナソニックやPHPの資料に頼らず協力も仰がなかったという自力取材の本。周辺取材により、より生々しいエピソードが明かされ、松下幸之助が「経営の神様」になっていく時代背景や周囲の人間模様などが浮き彫りになる。そこまで取材しなくてもいいのではないか、松下幸之助とは関係ないのでは?と言いたくなるくらいの徹底取材。タイトルからしてお分かりのように、なぜ世界の松下になったのかを血族との関係から掘り下げている。父親の没落、義弟との確執、世襲へのこだわり、第二夫人・・・いろいろあるが、やっぱり偉大な人であることに変わりなし。神様と呼ばれる人も、身近な人にとっては生々しい人間であり、神様と呼ばれるほどの人だけに、その生々しさが激しく表出することもあったのだろう。
 同時期に経営の神様、松下幸之助は実は神様ではなく、普通の生の人間でしたよ、という本が出るのは何か意味があるのだろうか。人間誰しも完璧ではなく、失敗することも多いけれども、その生き方、そのやり方によっては神様と呼ばれるほどの成果を生み出すこともできるのだ、と前向きに受け止めたい。21世紀の松下幸之助を目指そう。
ほんとうは失敗続きだった「経営の神様」
ほんとうは失敗続きだった「経営の神様」 中島孝志 メトロポリタンプレス 1700円
 PHP研究所で松下幸之助から直接薫陶を受けたこともあるという著者が書いた「経営の神様否定本」。かと思ったが、人間味のあるすごい人だったという内容。失敗もたくさんあって、神様ではないが、凡人にはマネができないすごい人、それが松下幸之助である。だからマネをしようと思うな、と著者は言う。普通の会社に勤めていたらせいぜい課長止まりだったと本人も言ったそうだ。丁稚奉公から世界のパナソニックを生み出した多くのエピソードはやはり参考になるし、あまり美化、神格化しようとせず、実態を伝えようとする本書の性格上、従来の幸之助本よりも親近感が湧く。これによって、著者はマネするなと書いているのだが、余計に「あの経営の神様でもこういう失敗があって普通の人間だったのだな。それなら、俺にもできるのではないか」とマネしたくなる本である。そういう意味では良い刺激を受けられる本だと言える。松下幸之助を目指そう。「成功するまで続ければ失敗はない。」
下町ロケット
下町ロケット 池井戸 潤 小学館 1700円
 直木賞受賞作。ロケット開発で挫折を味わった研究者が父親の後を継いで中小企業の経営者になり、ロケット打ち上げの夢を追いかける。そこには大企業の横暴や銀行の冷酷さ、法廷闘争や社員の離反などの試練が待ち受ける。直木賞を受賞するだけあってストーリー展開は面白いし、主人公の心理描写もいい。
 中小企業の経営者であれば、誰もが味わったことがあるであろう大企業の傲慢さや上から目線の業者扱い・・・天下の○○○と商売ができるだけでもありがたいと思え、と言いたそうな態度。あぁ〜生々しい場面がよみがえる・・・(涙)。そして晴れた日に傘を貸し、雨の日には傘を奪って行くと言われる銀行のコロッと変わる融資姿勢。金を借りてくれと言ってきたのはそっちじゃないか!!と言いたくなるけど、言えない中小企業の悲しさ。イザという時に全然正義の味方ではない司法。世間の常識や道徳お構いなしの法律論・・・。とても中小企業の手に負えない。かといって有力な弁護士は高くて雇えない・・・。そんな話が次々と出てきて、中小企業の経営者は涙無しでは読めないだろう。私も泣いた・・・。つい感情移入してしまう。さすが直木賞!と感心しながら読み進めた・・・。
 だが、何と言っても経営者をガッカリさせるのは、経営者の意図を社員に理解してもらえないことだ。大した人数でもないのに、反目したり離反したり、あるいは他人事で無関心だったりされると、何のために頑張っているのかと経営を投げ出したくなる。外部の敵と戦っている時は苦しくても力が湧いてくるが、内部の敵がいたりすると力が抜けてドッと疲れる。本書の主人公も会社を捨てて研究者に戻ろうかと揺れ動くのだが、やがて前向きに進み始める。社員の立場の人も本書を読んで経営者の悲哀を知って欲しいものだ。これ以上ストーリーを書くとネタバレになるから、是非お読み下さい。
 仕事は二階建ての家だと言う主人公の言葉が気に入った。会社の規模に関係なく自分の仕事にプライドを持つというのはいいものだ。大企業に勤めていようが、中小企業に勤めていようが、自分の仕事に思い入れを持って取り組もう。仕事に前向きになれる一冊。映画化が待ち遠しい・・・。おすすめです。
人事部は見ている。
人事部は見ている。 楠木 新 日経プレミアシリーズ 850円
 元人事マンが書いた人事部論。タイトルからすると、人事部が社内に目を光らせて社員の不平不満や不祥事を見つけ出し、それで左遷したり降格させたりしている・・・といった内容かと思うが、そうではない。人事のあり方や人事マンがどう考えているかといった人事部ってこんなことをしていますよ的な内容が中心。それも大手企業を中心とした内容で、そもそも人事部もないような中小企業ではあまり現実的ではない話も出て来るが、人が人をどう評価するか、人事を司る側の苦労といった点を知ろうとするには良い本である。ほとんどの人が自分への自己評価が高く、何かしら人事には不満を持っていたりするから、そういう人は人事の限界を知ることができていいだろう。従来の企業のあり方、人と企業との関係、働き方が変化している以上、人事の仕事も変わっていくべきである。そうした問題提起もある。人事に不満のある人と人事の仕事に興味がある人にはおすすめ。
柳井正の希望を持とう
柳井正の希望を持とう 柳井 正 朝日新書 700円
 ファーストリテイリング会長兼社長が書いた経営論、仕事論。朝日新聞のコラムを編集したもののようだが、新入社員から経営者まで参考になる良い本だと思う。希望を持とうというタイトルではあるが、中身は健全な危機感を持とうという感じ。今の日本、日本企業には危機感が足りない。まずまず、まぁまぁで満足するヌルさがある。それを払拭するために、柳井さんの危機感を参考にさせてもらおう。全社員が読んで共通の問題意識を持つのにも良いと思う。新書で安いし。早速弊社でも全社員に課題図書としてレポートを要求しようと思う。管理者、経営者としてもどうあるべきかが書かれているから、覚悟を持って共有すべきである。それにしても700円は安い。良著。
会社は変われる!
会社は変われる! 魚谷雅彦 ディスカバー・トゥエンティワン 1500円
 日本コカ・コーラの会長で、NTTドコモの特別顧問としてドコモの社内改革に取り組んだ著者の企業変革レポート。サブタイトルは「ドコモ1000日の挑戦」。ドコモのブランド見直しから、マーケティング改革、顧客志向を徹底する意識改革などに取り組んだ約3年のレポート。コカ・コーラ、ドコモなど、元々ポテンシャルのある一流企業だからできることだろ、と中小企業の経営者は言いたくなるかもしれないが、取り組みの本質は中小でも参考になると思う。やっぱり社員一人ひとりの意識の問題であり、目先の数字を追いかけるあまり顧客不在、顧客後回しになることがどこの企業でも起こっている。だが、トップが本気になれば会社は変わる。ドコモがどれほど変わったのか、実感がないので、効果の程は分からないが、あれだけの規模でも変われるのであれば、中堅・中小なら尚更変われる。
 ちょっと綺麗事過ぎるというか、綺麗なことしか書いていない感は否めないが、ブランディングに興味のある企業は参考になるだろう。ネーミングやマーク、デザインだけでなく、企業のブランドは社員の行動によって確立される。本書を読んで、プライドを持って仕事に取り組める会社を作ろう。
絶対にゆるまないネジ
絶対にゆるまないネジ 若林克彦 中経出版 1300円
 新幹線、東京スカイツリー、瀬戸大橋などに採用されて有名になった、絶対にゆるまないネジ(ナット)を作っているハードロック工業の社長が書いた経営論。「東大阪のエジソン」と呼ばれるほどの発明社長だけに、そのアイデア、技術があったからできたのだろうと考えてしまうと得るところがない。発明王に発明で対抗する話になって、経営論ではなくなる。
 大切なことは、物としての商品であるネジ(ナット)一筋にこだわったのではなく、「ゆるまない」という機能にこだわったという点。ゆるまないネジを極めて半世紀。「絶対にゆるまない」ネジを作った。ここが重要。普通の会社なら、「ゆるみにくい」ネジ(ナット)が出来たら、廉価版の普通のネジを作り、ボルトも作って、売上規模を追ってしまうだろう。これでは年商は増えても下請体質から抜け出せない。
 そしてもう一つは、優れた製品を産み出して終わりにせずに、営業に力を入れたこと。自力で売り、売り先を分散させてこそ経営体質が強化される。どんなにいい物であっても、実際に認知してもらい使ってもらわなければ価値を産まない。技術力のある中小企業というのは少なくはないが、営業力を軽視して、すぐに親会社を求めてしまうから、結局コストダウンや製品開発の成果は親会社に持っていかれて、忙しい割に儲からない・・・ということになる。そして、普通の下請け企業として親会社の業績に依存しながら生きていく。そうなると、年商が増えて従業員が多くなっても、結局大して儲からない。
 それに対して、ハードロック工業は、世界一の企業、マネのできない技術と評価されながら、年商12億円、従業員50名・・・。少ない。小さい。
 どちらの方向に進むかは経営者の価値観次第だが、小さくても世界一の方が楽しくてプライドを持って仕事ができることは間違いないだろう。中小企業経営者必読の書。
大前研一と考える「営業」学
大前研一と考える「営業」学 大前研一 ダイヤモンド社 1500円
 大前研一編著となっているが、ビジネス・ブレークスルー大学編著という感じで、BBT教授陣が寄稿。BBT大学のPRっぽい本だが、大前氏の営業のあり方についての指摘はまったくその通りである。まさに、「営業マンは諜報マンでなければならない」と私が提唱するストラテジック・セールスのパクリじゃないか、と言いたくなるような内容であった。営業のテクニックではなく、営業のあり方そのものを見直すべきであるという指摘はさすが大前研一大先生。分かっておられる。テクニックで売れても、そこに顧客の満足や活用がなければ、長い目で見て成功とは言えない。世には、「売れないものでも売る」「気合と根性と足で稼ぐ」「売ってナンボ」みたいな営業研修、営業力強化指導が多過ぎる。そんな売り方をしてはいけないし、そんなことをしていては安定的な高業績は見込めない。今こそ、ストラテジック・セールスに転換すべきである。本書では、このような営業のあり方を教える研修指導会社はないと述べているが、ある。NIコンサルティングがある。申し訳ないけど、ある。知らないかもしれないけど、ある。
 第一章の大前研一氏のパートだけでも読んでみるといいだろう。営業改革、営業力強化の方向性を見直す上で参考になるはずだ。
憂鬱でなければ、仕事じゃない
憂鬱でなければ、仕事じゃない 見城 徹 + 藤田 晋 講談社 1300円
 幻冬舎の社長とサイバーエージェントの社長によるビジネス論。ヘタな仕事術、マナー本を読むよりよっぽど役に立つから若いビジネスマンは是非読んでみるといいだろう。ウダウダと不平不満ばかり言って何も為そうとしない中高年ビジネスマンにもおすすめかな。。。普通にやっているだけ、ちょっと努力したくらいで出来ることなど高が知れている。憂鬱になるほど苦しいこと、辛いことを乗り越えてこそ大きな成果が出せるという当り前の摂理を改めて知ることのできる一冊。
 そういえば、以前(結構前だが)、藤田社長のブログを読んでいたなぁ〜と思い出す。いつ頃だったかよく覚えていないが、創業して間もない頃だったのではないかな。死ぬほど仕事をしている若い経営者が、なかなかいいことを書いていた・・・いい刺激になった・・・。やっぱりそんな彼だからその後の成長もあったのだろう。なんだかその後はITバブルとか、女優と結婚したりとか、イメージが悪くなって興味も薄れていたのだが、相変わらずなかなかやるなと思う。こんな本を出してしまうオープンさも相変わらずだ。
 見城社長のシビアさは有名だが、幻冬舎の社長の本なのに、講談社から出るというあたりにも、彼らの仕事へのシビアさが感じられる。講談社もなかなか熱い。熱い仕事をしたい人におすすめ。
ホワイトスペース戦略
ホワイトスペース戦略 マーク・ジョンソン 阪急コミュニケーションズ 1900円
 「ハーバード・ビジネス・レビュー」でマッキンゼー賞を受賞した論文の書籍化だそうだ。従来の客層やビジネスモデルから離れた、まったく新しいビジネスを生み出せと提言している。それが手垢のついていない「ホワイトスペース」なのだと。いくらマーケットが飽和して、商品のコモディティ化が速いと言っても、そんなに無理して「ホワイトスペース」にチャレンジしなくてもいいのではないか、と思ったりもするが、そうしたビジネスモデルの変更、革新のためには多くの抵抗や障壁があることを学べる本である。
 本書では、ビジネスモデルを「顧客価値提案」「利益方程式」「主要経営資源」「主要業務プロセス」の4つの基本要素で説明している。従来のビジネスモデル本よりも親切であり、より具体的に踏み込むことができている。新規事業のアイデアはあっても、それを実際に推進していこうとすると、従来のビジネスの事業構造や収益モデルに合わないことには抵抗感があり、失敗することが多い。そこをどうするか、が問題なのだが、それに対する明確な回答がもうちょっと欲しかったな・・・。
 ホワイトスペースに打って出るかどうかは別にして、まずは自社の事業構造、収益構造を把握し、どのようなビジネスモデルになっているのかを理解することから始めるといいだろう。案外自社のことをよく分かっていない経営者も少なくない。思いつきで新しいことを始めてうまくマネジメントできないことも多い。しっかり勉強しよう。
独自性の発見
独自性の発見 ジャック・トラウト スティーブ・リヴキン 海と月社 1800円
 戦略と言えば、差別化戦略と言ってもいいくらい差別化の重要性は認識されているが、ではどうやって他社と差別化を図ればいいのか、という方法論は誰も教えてくれない。著者は、「あの有名なマイケル・ポーターも独自のポジショニングが重要だとは言うが、どうすれば独自性が出せるのかは教えてくれないではないか」と噛み付く。そうだ、その通り。頼むぞポーター!そこが難しいのに・・・。本書はそれを教えてくれると言う。読まないわけにはいかない。
 なかなか参考になる本である。ヒントもたくさんある。だが、著者はマーケティングの人であり、どう差別化しているように見せるか、どうアピールするかに偏った感じも否定できない。実体としてどう差別化を実現するかという事業構造、業務プロセスに踏み込むものではない。やっぱりここが難しいんだけどな・・・。誰も書けないなら、私が書くしかないかな・・・なんて思う。頑張ろう。
 実は本書は、日本では2001年に出た「ユニーク・ポジショニング」(ダイヤモンド社)の増補改訂版。読み終わってみて、こんな本を読んでいないわけがないんだけどな・・・、と思い直し、書棚を見てみると、あった。「ユニーク・ポジショニング」発見。やっぱり読んでいた。そしてこの「おすすめBOOKS」でもしっかり紹介していた・・・。はははは・・・・。人にすすめておいて、読んだことを忘れているとは・・・。人の記憶もいい加減なものだ。しかし、読み返すだけの価値のある本である。増補改訂版ではあるし、翻訳も違うから、「ユニーク・ポジショニング」を読んだことがあってもまた読んでみるといい。200円安い。古本屋に売らず、今も「ユニーク・ポジショニング」が書棚にあるなら、どうせ忘れているだろうから(笑)、もう一度読み返してみるのもいい。大切なことが書いてある。
 企業は独自性を追求しなければならない。競合他社と横並びの同質化競争をしていては仮に生き残ったとしても疲弊してしまう。ユニークなポジションを確保しよう。
ダントツ経営
ダントツ経営 坂根正弘 日本経済新聞社 1700円
 建機のコマツの会長が書いた経営論。これぞ世界で戦う日本企業!という感じの本だ。自動車業界のような派手さはないけれども、グローバルに展開する智恵と工夫が伝わってくる。著者の実体験に基づく日本企業とアメリカ企業との対比も参考になる。他国を知ってこそ日本を知ることになるということだろう。日本国内だけを見ていては本当の日本は分からない。
 コムトラックスという建機の遠隔制御装置(GPS等がついて稼働状況をつかむセンサーのようなもの)の活用も興味深い。あまりITに縁のなさそうな建設業界、建機業界だが、そんなところでもITなしでは成長発展進化なし。本書ではITとは呼ばずICTと表記する。このあたりもネットワークを意識したこだわりがあって面白い。全世界の自社建機がどのような稼動状況になっているのかがタイムリーに把握でき、遠隔で操作もできれば、単なる建機の製造販売ではなく、業務効率を上げる付加機能を実現することができるようになる。
 実は、弊社でも、ITを活用して、RCS(リモート・コンサルティング・センサー)という機能を実装することで、クライアント企業のシステム稼働状況をつかめるようにしているのだが、これがあることで、トラブルの予兆を検知でき、先回りして手を打つことも可能となる。どんな業界でも、自社の事業を機能・効用面から定義し直し、どのような製品提供、サービス提供ができるかを考えてみるといいだろう。
 日本国内のマーケット縮小が避けられない今、コマツの経営は多くのヒントを与えてくれるはずだ。
兵学者 吉田松陰
兵学者 吉田松陰 森田吉彦 ウェッジ 1470円
 松下村塾で幕末の志士、明治維新の立役者を育てた思想家・教育者というイメージの吉田松陰だが、実は山鹿流兵学師範の家督を継いでおり、兵学者として「孫子」の研究をしていた。「講孟余話」の著述が有名だし、松下村塾では孟子の講義をしていたと言われるが、「孫子評註」という孫子の注釈書も残している。本書では、吉田松陰の孫子解釈を軸にして松陰の思想と行動を明らかにする。孫子の原文を鵜呑みにせず、独自の解釈を加えようとする松陰の姿勢がいい。紀元前の、それも中国での兵法をただ日本語にして読み込むだけでは意味がない。そこから何を学び、どう活かすか。松陰は、まさに黒船が開国を迫り徳川幕府が崩壊寸前になる中で、日本が諸外国とどう向き合っていくべきかを孫子の思想から導き出したと言う。なかなか興味深い考察だ。
 惜しむらくは、松陰が兵学者であって兵法家ではなかったということ。(兵学者と兵法家の違いについては、私の孫子解説を参考にしていただきたい。)自ら孫子の兵法を実践するなら、もう少しやり方、戦い方があったのではないかと思われて残念だ。まだ若かったからかな。若いと言えば、本書の著者も1973年生まれの若い先生だ。当り前だが大学の先生はよく研究している。私は、若い人にも孫子に興味を持って欲しいと言ってきたのだが、自分より若い人に孫子を教えてもらうことになるとは・・・。孫子兵法家としてうかうかしていられない。吉田松陰を孫子兵法から斬り、孫子兵法を松陰から斬った一冊。
ユニクロ帝国の光と影
ユニクロ帝国の光と影 横田増生 文藝春秋 1429円
 ユニクロと社長である柳井正氏の内情を徹底取材したという暴露(?)本。帯には「柳井正、非情の経営」とある。基本スタンスは、ユニクロは業績を伸ばしていて社長も調子のいいこと言ってるけど、実際にはうまく行っていないことも多いんだろ?という批判的なものだ。内容的には、創業経営者であれば、当たり前じゃないかと思えるようなことも多く、ビックリするようなネタがあるわけではない。そうした批判的なネタ元もユニクロを退職した元社員のインタビューだったりするから、柳井社長は外面はいいけど、社内では厳しくて怒鳴り散らしている・・・みたいな話が多い。社長と社員では視点も意識レベルも違うということを再認識させられる。子供が「うちのお父さんは家ではパジャマ着てゴロゴロしているくせに、外に出たらスーツ着てカッコつけてる」みたいなことを言っているのに等しい。内と外でまったく同じである方がおかしいだろと突っ込みたくなる。きっと経営者が読めば、「あぁ、柳井さんもこんなことまで書かれて大変だな」と同情的になるだろう。後継者問題などもよくある話。安心して経営を任せられる後継者などそう簡単に現れない。規模も大きく、世襲もしないとなれば尚更だ。成功し目立ってしまうとどうしても嫉妬され、金儲けはうまいけど人として問題があるとか、いつまでも成長が続くと思うなよ・・・的なやっかみ、批判が出てくる。そういうのが一般の読者は面白いし、溜飲が下がって気分がいいのだろうが、何ともさみしい話ではある。
 では何がおすすめなのか、ということだが、ユニクロビジネスの仕掛けが紹介されているのでこれを参考にしたい。儲かるには儲かるだけの仕組み、仕掛けがある。その努力があってこそ事業は発展するということ。中国の生産工場などへの指導なども、厳しいと言えば厳しいが、それだけ品質を維持しているわけで、それを情緒的に中国の労働者が可哀想だといった論調で捉えてしまってはもったいない。品質へのこだわりを学ぼう。ZARAとの比較も面白い。同業のように見えるけれども、儲けのカラクリは違う。自社独自の事業構造を構築するということを学ぶといいだろう。
 経営者、後継者、事業家を目指す人にはおすすめ。成功者を批判したい人も面白く読めるだろうが、そういう人は本書を読まずにボランティアでもしよう。
言い訳にサヨナラすればあなたの人生は輝く
言い訳にサヨナラすればあなたの人生は輝く ショーン・スティーブンソン 成甲書房 1500円
 骨形成不全という先天的疾患を持って生まれ、身長は90センチほどで、車椅子がなければ移動できないという著者が書いた成功哲学。著者は心理療法士。一貫して訴えられていることは「言い訳を捨てよ」ということ。たしかにこの著者に「できない言い訳をするな」と言われたら返す言葉はない。原題はまさに「Get Off Your “But”」。
 「でも、○○できないし・・・」「でも、自分にはまだ早い・・・」「でも、お金がない・・・」といった言い訳を止めて、どうすればできるかを考えてみよう。米国版「五体不満足」のような感じで、「俺は五体満足なのに、何を言い訳ばかりしているんだ」と、この著者が言うから素直に聞けるように思う。成功哲学のようなものは、余程成功して有名になった人でなければ、良いことが書かれていても「それでアンタはどうなの?」と突っ込みたくなるが、本書はその点でも読みやすい良著である。自信を失い、つい縮こまってしまいがちな人におすすめの一冊。
図解ビジュアル 経営の見える化
図解ビジュアル 経営の見える化 本道純一 実務教育出版 1500円
 経営の見える化「可視化経営」の第一人者が書いた入門書。1テーマごとに2ページ見開きで、右ページは図解。「経営の見える化」を「見える化」した一冊。オマケに、経営の見える化を進めていくためのワークシートが読者特典でダウンロードできる。2色刷りの図解で分かりやすく、親切丁寧な本である。これで1500円は安い。
 「経営の見える化」は、見ようと思えば見える「現場の見える化」とは違って、そもそも経営という見えないものを見える化するものだから、どうしても難しくなる。範囲が広いから何をどうすればいいか分かりにくい。それを何とか初心者でも分かりやすくしようとしたのが本書である。本書で「経営の見える化」の全体像をつかんだら、シリーズ本の「すべての見える化で会社は変わる」、「すべての見える化実現ワークブック」を読んでみるといいだろう。より理解が深まり、ワークブックに沿って検討していけば、社内で可視化経営を進めていける。
 先が見えない混迷の時代。だからこそ経営の見える化を進め、「可視化経営」を実践していこう。先が見えれば希望が持てる。おすすめです。
挫折力
挫折力 冨山和彦 PHP新書 820円
 新書には、「○○力」「○○の力」といった書名が多いような気がする。何でも「○○力」とつければいいってもんじゃないぞ、と一言言いたくなるが、本書もタイトルと内容のズレが気になる。挫折力というけれども、当然挫折すればいいというものではなく、挫折からいかに学ぶかという内容であり、正しく言えば挫折克服力とでも言うべきなのだろうが、語呂が悪いんだな。。。きっと。だが、内容はとてもシビアで良いと思う。挫折というよりも修羅場をくぐることで、人や組織を斬ったり、捨てたりする覚悟が出来るようになるというリーダー論である。さすが、産業再生機構のトップにいた人である。多くの修羅場を見て来たのだろう。綺麗事だけでは済まない現実を踏まえた内容になっている。金や権力、嫉妬心など言いにくい部分にも踏み込んだあたりはさすがである。こんなことを経営学者は教えてくれない。著者も挫折が多かったということだが、東大を出て司法試験にも合格して・・・という人に挫折が多かったと言われても少々ピンと来ない。若いビジネスマン向けに書かれた本ではあるが、充分に経営者やベテランビジネスマンに通用する内容である。むしろ、若い人には重過ぎるかな、と思う。良著。
儲けすぎた男<小説>安田善次郎
儲けすぎた男<小説>安田善次郎 渡辺房男 文藝春秋 1600円
 一代で安田財閥を作り上げた安田善次郎の物語。徒手空拳、裸一貫の露天商から銀行家へと成り上がっていくストーリーだ。やはり成功する人は、日々の努力の積み重ね、細部へのこだわりが違う。そして引き立ててくれる人との縁。優秀なだけではダメだな。そして周囲に流されない本質を見抜く力。流行に乗っかっているだけでは短期的には良いことがあっても長続きしない。幕末から明治にかけての動乱があったからこそチャンスが与えられたという点も忘れてはなるまい。そういう意味では現在も充分平成の動乱と呼ぶべきことが起きているから、チャンスが拡がっているのかもしれない。起業家を目指す人にはおすすめの一冊。
フェイスブック 若き天才の野望
フェイスブック 若き天才の野望 デビッド・カークパトリック 日経BP社 1800円
 フェイスブック社ならびに創業者マーク・ザッカーバーグの起業ストーリー。実に詳細な取材によって事細かにその情景が描写されている。できれば、映画「ソーシャル・ネットワーク」を観てから本書を読むといいだろう。映画では、マーク・ザッカーバーグの人間性や友人との関係などを描いていて、フェイスブックがなぜ伸びたのか、そこでどんな意思決定があったのかといったビジネス面の描写は非常に少なかった。そこで本書を読むと、映画で観たシーンを元にその場のイメージが浮かび、さらに詳細のビジネス上の意思決定などが疑似体験できる。本書は経済誌のベテラン記者によって書かれているが、まるで「その場にいたのか?」と突っ込みたくなるほど、会話の中身やその場の情景までが伝わってくる。内容が具体的かつ細か過ぎて、ページ数は500オーバー。少々読むのに苦労する。
 本書を読むことで、フェイスブックが一体何で、何を目指しているのかを理解できるようになるだろう。私もフェイスブックが何なのかよく分からなかったが、本書を読んでようやく理解できた。ツイッターと何が違うのか、についてもやっと分かった。ネットの覇者はフェイスブックかグーグルか、それともやっぱりマイクロソフトなのか・・・・・きっとそのいずれでもない。。。ような気がする。
 フェイスブックに興味がある人にはおすすめである。フェイスブック利用術なんて本を読む前にこちらを読むことをお勧めしたい。
はやぶさ、そうまでして君は
はやぶさ、そうまでして君は 川口淳一郎 宝島社 1200円
 数々のトラブルを乗り越え、7年間、60億キロにも及ぶ宇宙航海をやり切った小惑星探査機「はやぶさ」のプロジェクト・マネージャーによる秘話。当初予定していた4年が7年に伸びたのも大変だなと感じるが、なんと構想からは25年。今から25年も前に構想した人がいたというのもすごいし、25年間その想いを持ち続けた人がいたというのもすごいなと思う。後継機である「はやぶさ2」も計画されているらしいが、この打ち上げ予定は2014年。帰還予定は2020年だそうだ。これも10年がかり。。。またいろいろトラブルがあって、実際に帰ってくるのは2025年とか30年とかになるかもしれないが、こうした長期のプロジェクトを立ち上げ、それを維持し、ミッションを完遂するということに感動する。
 本書では、NASAとの力の差、予算の差、規模の差、実績の差などが何度も取り上げられる。米国と比べてどうしても遅れていて、予算のない日本がどうやって世界初の実績を出すか。そのチャレンジに人・モノ・金のない中小零細企業が独自領域を切り拓いていく姿を重ね合わせてみて欲しい。「できない」と諦めていては何もできるようにはならない。「何とかする」「どうにかする」「なんとしてもやり切る」という姿勢があってこそ大きな成果も生まれる。そもそも実力がないのだから、1年、2年でできるようにはならないかもしれない。5年、10年でも厳しいかもしれない。だが15年、20年とかけたらどうだろう?それでも「できない」と言えるのか?
 中小零細企業こそ長期の構想、ビジョンを持つべきだと思う。人には寿命があるが企業には寿命はない。半永久的に存続できるのが企業だ。国も同じ。「はやぶさ2」のプロジェクトも同じ人たちがやるのではなく、若い世代に譲って取り組むそうだ。こうして人の寿命を越えた成果が残され、蓄積されて行くことになる。「はやぶさ」から多くのことを学ぼう。
植松電機 T
植松電機 T 田原 実 インフィニティ 1200円
 感動コミック第7弾は宇宙ロケット開発を自前で行う北海道の中小企業、植松電機。やってもみないで、「どうせ無理」「自分にはできない」と諦めてしまうことへの警鐘を鳴らしてくれる一冊。やればできる。思えば叶う。難しければ、ではどうするかを考える。「景気が悪い」「中小企業には人モノ金がない」「政治が悪い」と泣き言や不平不満ばかりで、自分では何もしようとしない人たちは是非本書(本マンガ)を読んでみるといいだろう。本を読む努力すらしたくないという人でもマンガだから読めるでしょう。20分もあれば読めます。小学生、中高生あたりにも是非読んで欲しいと思う。感コミシリーズは、マンガという媒体を人材育成や教育に役立てるとても面白い取り組みだ。本くらい読んで欲しいとは思うが、より多くの人に伝える媒体としてマンガは有効だな。社員教育だけでなく、子供の教育にもおすすめだ。その前に経営者や親が考えを改めなければならないのだが・・・。
中国人に学ぶ謀略の技術
中国人に学ぶ謀略の技術 福田晃市 PHP研究所 1200円
 1855年に書かれた中国の兵法書「間書」の内容を分かりやすく解説した本。孫子の兵法でも間諜すなわちスパイの活用による情報戦の重要性を説いているが、間書は中国戦史の事例を元に謀略、諜報のやり方を教えてくれている。諜報活動とか、スパイとか、謀略などと言うと人を騙すようで印象が良くないが、実は無駄な殺し合いや戦争を回避する最高級のインテリジェンス活動である。私は、営業活動は諜報活動でなければならないと考えているから、本書の内容もすべて営業活動に置き換えて読んでみたのだが、営業本としても充分使える内容である。営業マンは単なるモノ売りでも、接待要員でも、客にヘコヘコするご機嫌取りでもない。情報を操り、情報力によって人を動かす諜報員でなければならない。分かりやすく書かれていて良い本だと思うが、タイトルがイマイチなのかな・・・2007年の本なのにすでに絶版になっている感じ。営業マン、営業マネージャーにおすすめ。是非探して読んでみてください。
 

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